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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)983号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人齋藤淳一の上告趣意第一点について。

記録を精査するに、弁護人が昭和二二年七月一二日附書面で原審裁判所へ法廷外で所論各証人の喚問を申請したことと、之に対し原審裁判所は同月二二日第三回公判期日に右申請の採否を留保する旨を告げ、その後右について何等の決定をしないでそのまま結審し判決を言渡したことは所論の通りである。

しかし、旧刑訴法第三四四條は、同法第二編第四章第二節「公判手続」と題する節の下に規定され同法第三二九條以下の規定と対照すれば、右第三四四條の規定は公判期日に公判廷で行われる手続に関するものであることは明であって、被告人、弁護人のするいわゆる「証拠調の請求」は公判中心主義に基いて公判廷でするものを原則とし、公判廷外でする、被告人、弁護人からの証人鑑定人等の取調の請求は、旧刑訴法上は、同法第三二四條第三項に基き裁判所に対し同條第一項に規定する証拠物若しくは証拠書類の提出命令、証人、鑑定人等に対する召喚状発布等の処分を請求することに帰するものと解すべきである。そして被告人、弁護人から右処分の請求があった場合裁判所が右請求を却下するときは決定をしなければならないことは同法第三二四條第四項の規定するところであるから、若し裁判所が右規定に違反し、右請求を容れないにも拘らずこれを却下する決定をしなかったときは違法ではあるけれどもその違法は、同法第四一〇條に規定する絶対的上告理由となるものとはいえない。何となれば旧刑訴法第四一〇條第一四号にいわゆる「公判ニ於テ為シタル証拠調ノ請求ニ付決定ヲ為スヘキ場合ニ於テ之ヲ為ササリシトキ」とは公判における同法第三四四條の場合を規定したもので公判外における同法第三二四條の場合を規定したものでないことを明文上明であるからである。絶対的上告理由は判決に影響を及すと否とを問わず常に破毀の理由となるべきものであるから厳格に解釈するのを相当とする。そして所論証人尋問申請は公判廷外でなされたものであるから、その申請書には「証人申請書」とあっても、同法第三二四條第三項に基き裁判所に対し同條第一項の処分を請求したものというべく、これに対し裁判所が法定を留保したまま何等決定をしなかったことは違法ではあるが同法第四一〇條第一四号の違法ある場合に当らないこと前述のとおりである。そして所論証人申請書を見ると、弁護人がその申出た証人により立証しようとするところは何れも、被告人の人となり、性格、素行、習癖等であると書いてある。しかるに本件については原審裁判所は、職権により、若しくは弁護人の申請によって、二〇人余の証人を尋問し、又被告人の精神鑑定をも命じているのであり、これ等証人の取調鑑定の結果によって、所論証人申請により立証しようとする事項は十分に取調べられているのであるから、原裁判所が前記処分の請求に対し何等決定をしなかった違法は、本件では原判決に影響を及ぼさないこと明である。それ故論旨は採用することができない。(その他の判決理由は省略する。)

よって旧刑訴法第四四六條に則り主文のとおり判決する。

右は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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